タコピーの原罪 下巻

 …とんでもない刊行ペースで下巻出して来ましたね。トレンドを逃さない為でしょうが、これ最終回執筆と単行本作業同時進行くらいじゃないでしょうか。

 まりなちゃんの死体が見つかり、警察が動き始めます。東くんとタコピーが言い争う中、しずかちゃんは東京のお父さんのところまでチャッピーを探しに行く事しか考えていません。追い詰められた東くんに「自分が東京まで行く時間を作る為に自首しろ」と迫ります。

 しずかちゃん、チャッピーを取り返すまでで先の事を全く考えていませんので、言っている事を総合するとこうなります。お母さんへの承認欲求をお母さんに似たしずかちゃんで満たしたい東くんはしずかちゃんの期待を裏切れません。

 自首することを決めた夜、東くんはお母さんを巡って複雑な感情を抱いていたお兄ちゃんと和解してしまいます。おそらく東くんは警察に全てを話し(ハッピー道具関係は信じてもらえたか疑問点ですが)、それでもしずかちゃんは予定通り東京へ向かいます。

 ですがたどり着いたお父さんのところには娘が二人…既に別の家庭があったのですね。もちろんチャッピーはおらず、とどめにお父さんは(今の家族の前で対応に困ったのか)しずかちゃんを「知らない」と言ってしまいます。

 「あの子供たちがチャッピーを食べちゃったのかも」

 しずかちゃん正気を失いつつあります。人間を捕まえて胃のなかを調べる、と言い出すしずかちゃんを止めようとするタコピー。ですが既に邪魔者でしかないタコピーをしずかちゃんは石でぶっ飛ばしてしまいます。

 そのショックでタコピーが思い出した記憶は、まさに最悪なものでした。

 元々タコピーが最初に出会っていたのはまりなちゃん。高校生くらい?のまりなちゃんはお母さんの虐待を受けていましたが、東くんと久しぶりに再会して付き合う事になったのをきっかけにお母さんとの仲が好転しようとしていました。

 が、そこへしずかちゃんが転校してきて東くんはしずかちゃんに一瞬で乗り換え…。まりなちゃんはお母さんと揉め、お母さんを手にかけてしまいます。その時につぶやいた

「小4のとき ちゃんと殺さなきゃだった 久世しずかを」

 の言葉をよくわからないくせに真に受け、タコピーはハッピー星に戻って時間を遡り、久世しずかを殺そうとします。

 当然許される事ではなく、タコピーは記憶をリセットされますがギリギリでタイムマシンに飛び込み、全てを忘れながらもまりなちゃんが小4の時代にたどり着き、そしてしずかちゃんに出会ってしまったのです。

 しずかちゃんはおそらくお父さんの東京の娘二人も手にかけ逃げ続けます。

 全てが手遅れになっていく中、タコピーはしずかちゃんを止めようと追いすがります。

 タコピーにはもう何も出来ません。ここまで三人と関わって来て人間の心や命の意味を知ったタコピーには、ハッピー道具でどうにかできる状況ではない事がわかってしまいます。でもタコピーの心からの「ごめんね」はしずかちゃんの心に届きます。作中初めて涙を見せるしずかちゃん。ぐしゃぐしゃに泣き崩れる二人。

 逃避行の果てにタコピーは一つ決断します。こわれてしまったハッピーカメラ、タコピー自身を犠牲にすればもう一度だけ使えるのです。

「きみをものすごい笑顔にしてみせるっピ!」

 消えていくタコピー。物語開始時点までもどり、しずかちゃんにタコピーの記憶は失くなっている様子です。

 何事もなく学校に行き、まりなちゃんにいじめられています。ただ、何かが違っていました。東くんはお兄さんと話し合ったのか、わだかまりがなくなっており、お母さんへの依存が軽くなっている様で、従ってしずかちゃんへの依存もなくなっています。

 そして決定的な場面、前ループでタコピーがまりなちゃんを殺してしまう場面で、ぶちまけられたしずかちゃんのランドセルの中身に…タコピーの落書き。断片的にタコピーの事を思い出し、ぽつぽつと話し始める二人。

 泣き出してしまう二人。

 何かが解けたのか、まりなちゃんはもうしずかちゃんを痛め付けるつもりはない様です。状況は変わりません。しずかちゃんの家庭もまりなちゃんの家庭も壊れたままです。でもここで何かが変わりました。その証拠に二人は笑っています。ものすごい笑顔ではないけれど、間違いなく幸せにはなっています。

 タコピーは命をかけて少しだけ奇跡を起こしたのでしょう。「話し合う」まで行かなくても「話す」だけでも関係は変わる。それだけでも幸せは増えるのだ、と。

 わずかな変化ではありますが、その変化に敬意を表し「めでたしめでたし」の賞賛の言葉で項を締めたいと思います。

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