異世界ありがとう 1巻

 チートもらって楽しく異世界転生…かと思ったらそうでもなくて…なキビシめなろう系。リゼロ転スラ等々にありがとう、とか帯にも書いてますが、実は「灰と幻想のグリムガル」じゃね?な「異世界ありがとう」です。

 同窓会の帰りに意気投合して飲み直してたらいきなり揃って死亡、異世界転生…と微妙に情けない理由で転生してきた椎名と千葉の二人。エルフ美少女のチバと小動物系シイナ。服やら装備やらキチンと着けて人里離れた山の中に放り出されている、と言う微妙に怪しい状況ですが二人はそこまで考えず、互いの顔が可愛いか、とかの話に終始してます。

 ですが目前にドラゴンが降り立ち、(二人はガン無視されましたが)その威容を目にして…

「…ドッキリの線は消えたな」

「どうしよう」

 …まだいまいち現実感がない感じですが、とりあえず食糧を用意して人里を探しに行く事になります。食糧確保の間に試してみた「ステータスオープン!」で開いたステータス画面が頭上に出て、本人には見られない、とか間抜けな仕様だったり、スライムがけっこう強めの生物だったり、釣った魚をシメただけで経験値1もらえたり…なんか「嫌なリアルさ加減」がなんとも…。

 でMPの概念がある事がわかって色んな呪文を試してみた結果…チバが自分で考えていた呪文が有効だと判明。当然未発表のもの。…なんで?

 魔法も使えずまともな武器もないシイナはドラゴンの糞の中から掘り出した小剣で武装し、人里を目指して出発します。しかし途中でチバが矢を受け、二人はそのまま野盗集団タロン一家に囚われてしまいます。

「ドラゴンの縄張りに逃げ込まれた時はワシらも打つ手が無かったが なぜのこのこ街道に出てきた?」

 首領は二人の転生前(?)を知っているようです。チバは肝臓に矢が届いていて遠からず死ぬ。奴隷商人は死体は買わないからバラして有効活用。シイナは希少性がなくて売値が安いので子供を産ませる…60人くらい。

 異世界転生モノとは思えない嫌リアルさですね。また、ここまで見ていて二人には定番の「チートスキル」が存在しないようです。なのでその辺のモンスターを退治するのも一苦労だし、頭数のいる野盗に普通に負ける。

 このまま野盗に食い潰されて終わりか、と思ったところで助けが入ります。野盗たちをバサバサ切り裂いて行く男が一人。

「この世で一番重要なのは チート能力の有無でしょ」

 あるんだ、チート…。

 あっと言う間に野盗は全滅。賞金首だった為生け捕られた首領が呟きます。

「…そうか、おまえ おまえが…異世界人…!」

 そこにいたのは、魔法使いや僧侶や獣人の美少女を引き連れた…黒ぶちメガネにボサボサ髪の、なんかいかにもなテンプレオタク…。

「…あれ?オレまたなんかやっちゃいました?」

 えーーー…。なんかすごく見ちゃいけない物を見させられてしまった気分。

 コメディの皮をかぶった裏設定がキツい奴ですね。他が適当にごまかしているところの解像度を上げている、と言うか。それでいて異世界人の為の世界ぽい雰囲気もあるのが判断を難しくしています。チバの呪文の件とか、チート勇者wくんとか、そもそもチバとシイナの身体に元々入ってた人格はどうなった?

 原作の荒井小豆先生は他に「醤油を借りに行くだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド」と言うのを描いていらっしゃいますね。これもハードな背景を可愛いキャラのコメディで読ませる…言ってしまえば昨今の流行りのジャンルですが、より泥臭い方に振っている感じでしょうか。「ありがとう」も同タイプの感じがします。

 なんか「異世界ありがとう」てタイトルにも含みがありそうな感じで深読みしてしまいますね…そういうのも嫌いじゃないんですが。

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