逃げ上手の若君 8巻

 ついに兵を挙げました北条時行。ですが当面の総大将は頼重で…

「脱ぎたいです 全部脱ぎ捨てて…気持ち良く逃げたいんです!」

 真実を知らない武士たちに「噂の全裸逃亡ド変態稚児」とか呼ばれる惨状ですw。これ自体は鎧が重すぎる、というだけの話なんですが、いわゆる胴丸に近いものを装備する事で素早さを落とさずに格好をつける事が可能にw。

 「長寿丸」の直属として配属された三浦たちもやる気なく鼻ほじってますが、すぐにとんでもない奴の下につけられたと認識を改める事になります。時行と逃若党の役目は、おそらくこの戦場で最も厄介な敵、瘴奸の遊撃隊を抑える事。山道を迂回して頼重軍の裏を突く動きをしている瘴奸軍に、切り出した丸太に火をつけ、その上に乗って突入する、という大分頭おかしい作戦で挑みます。

「逃若兵法 火焔御柱の計!」

 諏訪の奇祭、御柱祭を参考にしたこの一手で瘴奸の軍は総くずれ。一旦散開する軍から瘴奸を見つけ出し、時行は吹雪と共に彼を追います。

「我が名は平野将監」

 恩人たる楠木正成と会った事を話す時行に武士としての名を名乗り、全力での一騎討ちを宣言します。時行側は二人ですが…。

 二刀と大鎧の鉄壁の防御を破る為、時行は瘴奸の目の前で後ろ向きになるという奇策に出ます。時行は吹雪の指示に従い瘴奸の剣戟を避けて行きます。必殺の攻撃をノールックで躱すとかとんでもない度胸と信頼ですが、これこそが吹雪考案の必殺技。

 指示役の吹雪の方に瘴奸の意識が集中した瞬間、時行を通して瘴奸目掛けて突きを放つ吹雪。時行は真後ろに「逃げる」。即ち吹雪の指示した目標に「逃げ」のスピードの時行が突っ込む!時行が後ろに突き出した刃は過たず瘴奸の喉元を捉えました。

 この技は自分を倒す為に磨かれたものだ、と気付いた瘴奸は奇妙な満足感を感じながら倒れます。

「罪深い生の最後に武士を育て武士として戦い武士として死ねた 心残りは何ひとつ」

 地頭として任された村の子供との約束。

「必ず生きて帰って来てね 約束だよ」

 消え行く意識の中で「死にたくない」と命を惜しんだ瘴奸…いや将監。畜生道に堕ちた男が人としての心を取り戻し、己の罪を実感しながら死んだのは罰なのか祝福なのか。

 ともかく、この戦の最大の不確定要素は除かれました。小笠原貞宗率いる軍対諏訪頼重本軍の戦は充分な準備の上に予知能力まである頼重軍が優勢。このまま押し切られるかに見えましたが、小笠原本陣から進み出て来たのは…戦車!?

 奴隷を動力とする巨大な車体。同じく奴隷に装填を任せて結果的に連射を可能にした弩の矢ぶすま。そして保科領から拐ってきた領民を装甲代わりに外壁に並べ、自分への攻撃を防ぐ…。人の心を失うとここまで効率のいい兵器が作れるのか、と驚くばかりです。

「野心が溢れて止まらない あらゆる手段で手に入れ全てあのお方に貢ぐのじゃ 至高のご褒美を頂くために」

 国司·清原。狂乱した結果その才能を十全に発揮し、この化け物を作り出すに至ったのです。もう仕える相手が帝か尊氏かも曖昧になっているのでしょうね…。

 郎党の協力で戦車に取り付いた時行は馬で戦車の側面を駆け登り、頂上部に居座る清原に頼重の神力の籠った矢を撃ち込み…これで苦しむって…尊氏一体何なの…。

 たまらず顔を出した清原を保科が一撃!首を落とします。

「麻呂はただ…世界を作りたかっただけなのに …誰の?麻呂の?帝の? 尊氏様あぁぁぁ」

 世が世なら歴史に名を残したかも知れない男でしたが、魔に魅入られ憐れな最期を迎えたのでした。

 戦の趨勢は決しました。小笠原軍は撤退しましたが、貞宗本人はひっかかるものを感じ、密かに諏訪軍の後を着けます。

 その勘は当たりました。軍を集めた頼重は「ここから先は大将が変わる」と切り出します。頼重が伴って来た少年「長寿丸」は名乗りを上げ始めました。

「遠からん者は音にも聞け!近くば寄って目にも見よ!」

 正式な武家名乗りです。

「我が祖は桓武の帝が後胤上総介平直方が曾孫にして源頼朝公の御舅…北条四郎時政!!」

 北条の初代執権、鎌倉幕府のド正統。そこから歴代北条本家の血筋の名が続き…軍も隠れて聞いている貞宗もザワザワする中…。

「十四代執権北条高時が嫡子!!我こそは相模の次郎…名を北条時行とぞ申し侍る!!」

 自分が北条の世継ぎである、と高らかに宣言した訳です。これがどういう事かと言うと、鎌倉幕府を再興するのにこれ以上説得力のある看板はない訳で…。つまり自分たちは正しい!という最強の大義名分が目の前に出てきたのです。この先どうするか不安に思っていた彼らはそりゃあ盛り上がるでしょう。三浦とか冷や汗かいてますがw。

 貞宗は足利にとっての時行の存在のヤバさをよくわかっているようです。

「ここで殺す 貴様が信濃から出る前に!」

 不満分子を集めて大勢力に膨れ上がる前に始末を着けようと、貞宗単騎で飛び出します。政治的な要をよく把握している、戦術戦略両面に秀でている小笠原貞宗。正に名将です。時行が打って出る為の最後の壁ですね。

 ここを越えると足利直轄軍を相手にする事になります。松井先生なので、強い奴ほどヘンなヤツになって行くのは間違いないw。史実との擦り合わせ等、どういうアクロバットをかましてくれるか楽しみにお待ちしておりますw。

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