明日の敵と今日の握手を 1巻

 「幼女戦記」「テロール教授の怪しい授業」のカルロ·ゼン先生原作、「土漠の花」「機龍戦記」のフクダイクミ先生作画…という、戦争のややこしい面を描く気満々の陣容で出てきたのは外交!

 冒頭の世界地図を見ると独伊露などの「皇帝同盟」と対立する英仏の「協商」、日本「ドラゴンフライ皇国」が中立という、独自の勢力関係が構築されています。もちろん各国の名前はぼかしてありますが、まぁバレバレですw。

 このドラゴンフライが同盟と協商のどちらに付くかで揺れている状態からお話が始まります。

「本当に私でよろしいのですか?」

 ロムルス·アッパーパーク中佐は観戦武官として協商側の軍に派遣されました。国内では同盟と組もうとする「艦隊派」と協商と組もうとする「条約派」がせめぎあっており、現状艦隊派が優勢。だがこの上司は条約派。協商の評価を上げる為…少なくとも同盟側に偏向していない事実を報告させる為の派遣でした。

 海戦に同行したロムルス。この世界の戦艦は空中に浮くんですね…。飛行船に近いのか。旗艦の衝角がぶつかり合う激戦の末協商が勝利を収めましたが…ロムルスは巻き込まれて戦死。

「まだ私にはやるべきことが…」

 そのロムルスを送り込んだ上司、ハラルド·ウィルストーン中将は協商軍勝利の報告を聞いて大喜びです。

「よし!俺が左遷される!乗り込むぞ!」

 …なんか喜びかたが変ですが、どうもこの人、大使館に乗り込んで謀略の最前線に突っ込むのが目的だったようで…。ロムルス死すの報を「そんなことは後だ」と切って捨てる辺り、相当確信犯でやっていると思われます。

 協商構成国ブレタニケに入国する際、

「君、汚い英語はやめたまえ クイーンズでしゃべってくれるかね?」

 …ネイティブに向かってこれです。舐めてかかってきた(計画的に舐めて来させた)入国審査官を勲章と外交官特権でヘコませ…。

 迎えに来た外交官に対して下手に出て侮らせたところで大使館の電信室に侵入して暗号表一揃い持ち出す…大使真っ青です。大使館の機密保持の緩さを指摘すると共に、この事実を本国に黙っている事で大使館内でほぼフリーハンドで行動できる権利を獲得…。ここまで正論を振りかざすだけで成果を得て来ていますハラルド中将。ですが見るだけで相当タチ悪いとわかってしまうのは何なんでしょうか?w

 副官として同行してきたアメリア·オーメロッド中尉(この人もかなり聡明)から見ると

「閣下は…人の心が分からないのではありませんか?」

 …つまりいわゆるサイコパス。理屈と道理と己の才覚にのみ従って行動し、無理は爵位と財力で強引に通す。

「周囲に合わせるんじゃなくて周囲をぶちのめしてきた口か…」

「…よくぞ今まで生きてこられましたね」

 条約派の怪物、の正体は破格の”正論モンスター“でしたw。

 ただ、この男が条約派にいるという事は現在勝ち目が薄いとされている協商に充分有利な要素がある訳で…

「はっきり言っておこう そう確信できるならば私は真っ先に協商の背中を刺す」

 本人がこう言ってますw。

 ハラルドの正論に従えば皇国は協商側に付かせねばなりません。その為には大使館を掌握する必要があります。

 海軍はハラルドがトップなので問題なし。大使を落としたので文官周りもOK。残るは…陸軍!伝統的に海軍と仲が悪い陸軍を揺さぶる為に軍内部から仕掛ける事を考え…。

 内容が内容だけに、軍が舞台でもドンパチのシーンは少なくなると思われます。マンガ的にどれだけイイ画をつけられるかですね。間違いなく面白くなると思いますので頑張って頂きたい…え、2巻今月にもう出るの?

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