「このマンガがすごい!」オンナ編1位という事でお試しで読んでみましたが…面白いわこれ!大河ドラマの作り方してますね。敵はこの時代のフリー素材、モンゴル帝国w。
「ジャードゥーガル」とはペルシャ語で奇術師というような意味だとか。副題から「魔女」の意味で使っているようですね。モンゴル帝国を混乱に陥れた悪女ファーティマ·ハトゥンを主役に据える様です。
イラン東部トゥース。ここに住む学者の家にシタラという奴隷の女の子が預けられるところからお話が始まります。笑顔の可愛いシタラに教養を付けさせれば高貴な人物の側仕えとして売れるかも知れない、という奴隷商人の思惑で他の奴隷の値引きの代わりに預けられました。…奴隷というとアメリカの黒人奴隷のイメージが強いのか悲惨な待遇ばかりの印象がありますが、奴隷というのは当時でもかなりお高い買い物だったらしい(高級車くらい)。なのですぐ死なれては大損害。当然ながら結構大事にされたらしいです(何事にも例外はありますが…)。中にはきちんと給料をもらい、自分を買い戻す解放奴隷なんてのもいたそうで。「ヴィンランド·サガ」のトルフィンなんかが正にそれですね。…何が言いたいかと言えば、奴隷と主の関係とは通常我々が思うような憎しみの関係だけではなく、もっと円満な関係もあり得た、という事です。
シタラを買った未亡人、ファーティマ奥様は兄にシタラの教育を頼みます。コーランの暗唱をさせようとしますがシタラはただ微笑むばかり。実はシタラ、隙をついて逃げる気満々でしたw。母さんと暮らしていた家に帰りたい、とシタラ。
「勉強イヤ!かわいい顔ももうしない!値段が高くなるもん そしたらもっとずっと遠くに売られちゃうんだ」
知らないところに行くのはイヤ、と泣くシタラ。家から離れたくない、と考えているのですね。もう戻れるわけでもないのに…。
ファーティマ奥様の息子、ムハンマドはシタラを屋上に連れて行き、
「今からこの盤を庭に落とすね」
洗濯なんかに使う、金属製の水盤を屋上から落としました。当然ものすごい音が!
「雷でも落ちたのか!?みんな無事か?」
「敵が攻めてきたんじゃないか!?見たこともないような武器を使う遊牧民とか!」
慌てる皆を見て笑うムハンマド。
「ところで君たちはどうしてそんなに冷静なの?」
屋上に一緒にいたシタラたちに聞きます。
「盤が落ちると知っていたし 実際落ちる瞬間も見ていましたから」
「つまり君たちは『大きな音がする』という未来を予測して 適切にそれに対処した、ということだね」
「勉強ってこういうことなんじゃないかな」
つまり知識があれば今なにが起きているかを正確に知る事ができ、何をすればいいかわかるようになる、と。
「それは絶対に悪い事じゃない」
これに感銘を受けたシタラは真面目に勉強に取り組むようになります。
ムハンマドは更に勉強するためニーシャプールという街へ行くことになります。彼はシタラに手紙を書く、と約束します。
「君は勉強して母様に手紙を読んで差し上げるんだ いいね?」
…ムハンマドが旅立って8年。シタラは彼がよこした手紙をファーティマに読み聞かせる日々を過ごしていました。彼女は既に教養溢れる女性です。ムハンマドの紹介でエウクレイデスの本を読ませてもらうシタラ。その「原論」という書物には
「点とは部分のないもの」
「線とは幅のない長さ」
「線の端は点である」
など当たり前の事が書かれ…ああ、ユークリッドの共通概念!ここが確定していないと何も出来ない、幾何学の基礎の基礎ですね。知らない人には何の意味もないけど、わかる人には無茶苦茶大事、てやつです。
「当たり前の事がなぜ当たり前なのか…ひとつひとつ事例を重ねて普遍的な『定理』を証明するの」
流石奥様も聡明です。そしてそんな話をした夜。トゥースに遊牧民の軍が襲いかかりました。シタラと奥様は貴重な本と共に地下に隠れ、他の者たちは山へ避難。隠れている間、奥様はシタラに、ムハンマドを憎からず思っているなら彼を一人の人間として支えて欲しい、と頼みます。簡単に言うなら奴隷身分からの解放と結婚ですね。
「私の人生はもしかしたら 光に満ちているのかもしれない…」
しかし地下室を開けたのは遊牧民の男たち。男たちは地下室を探り、「原論」を探しだすと持ち帰ろうとします。それを止めようとすりシタラに向かって
「俺を泥棒と謗るのか 違うな!この地上のものはみんか…太陽があまねく地上を照らすように 我が父チンギス・カンのものなのだ!」
彼の名はモンゴル帝国第四皇子トルイ。これはモンゴル帝国の進攻だったのです。
シタラをかばった奥様はその場で殺され、男たちも大半は殺されてしまいます。トゥースの街は壊滅。追い立てるように歩かされたどり着いた野営地でニーシャプールも滅ぼされた事を知りました。ムハンマドの生死も不明…全てをうしなったシタラ。
更にトルイは后に「原論」が見つかったら持ち帰ってほしいと頼まれたから、それだけでトゥースを滅ぼした…という事実がシタラに知らされます。本人は「原論」が読めないどころか書いてある事に興味さえない…!
「原論」を読める人間を探している、という話を聞いてシタラの中の何かが壊れました。トルイに取り入る為、「あの」微笑みを浮かべトルイにかしづくシタラ。名を聞かれ…
「わたくしは…ファーティマと申します」
…奥様の名前使いました。ここにいる誰も気付いていませんが、これは「お前にやられた仕打ちを絶対忘れない」という宣言ですね。
トルイの后、ソルコクタニの宮廷に「原論」と共に連れてこられたシタラ…ファーティマ。
「お后様のお勉強お手伝いシマス」
ファーティマ、モンゴルの言葉を憶えて自分で喋ってますね。
「お后様ドウシテその本お求め?ソレ価値あんまりナイ」
「当たり前のコト大袈裟に書いてアルだけ たぶん役立たナイ」
ソルコクタニも興味を失えば「原論」をあっさり手放すかも知れない、と思ったのですが
「当たり前のこと そうね きっとそう あなたたちにとってはね」
「だけど私たちにとっては始まりの本よ」
草原にない知識を取り入れたい、モンゴル帝国を盛り立てる為、いろいろな物事を知りたい。
「世界は草原よりも広いわ」
「知識を得て後の世代に伝えていくこと それは未来の皇后たる私の務めです」
その姿は奥様とオーバーラップして…
「ああ…どうしてこの人はこんなに…こんなに腹立たしいんだろう」
確かに手段は誉められたものではありませんが、ほぼ同じ事を言っている人に対して正反対の感情を抱いてしまう…この歪みは既に呪いと言っていいのかも知れません。
「私だけはこの怒りを忘れちゃいけない あの人には屈しない」
怒りの炎を隠し、顔には微笑みを浮かべてファーティマはモンゴル人と共に過ごします。そして3年後、チンギス・カン没。帝国の盤石が揺らぐチャンスがやって来ます…。
凝り固まってしまったファーティマ…シタラはここから突き進んで行くのでしょうが、これで幸せになれるとも思えません。いつか呪いを解いてシタラに戻る日は来るのでしょうか…?
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