となりの百怪見聞録 1巻

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 バケモノ、あやかし、怪異。人でないものとつきあうのにこちらに対抗する力がない…というときどうするか?

 例えば取引。相手に必要なものを渡す代わりに欲しい物をもらう。例えば交渉。だまくらかして逃げる。例えば無視。必死で知らん振りをするw

 この手の作品でよくある“バケモノをどうにかする力”がまるでない二人がバケモノとおっかなびっくり付き合っていく。「百鬼夜行抄」のような感じですがあちらともまたちょっと違う味付けで…。「となりの百怪見聞録」です。

 人ならざるモノ達の露天市「鬼市(クイシ)」にコンビニから迷い込んでしまう甚八。

 …コンビニから?あんな明るいとこから?そういう事もあるんですかね。

 なんとか逃げたはいいが、財布を落としてしまっていた事に気付きます。どうにも落とした心当たりがなく、件の鬼市で落としたとしか思えない。奥さんの旭さんは諦めてもいい、と言いますが、どうしても見つけなければならない気がする…。

「さっきの話 鬼市だ 無事戻れて何よりだね」

 そう声をかけてきた老紳士…日本画家の原田織座。オカルト関係の噂も多く、“オバケ先生”とも称される変人。

「なあ!“オバケ先生”よォ! あの変なトコにはどう行きゃぁいい!?」

 ただ一つの手掛かりと先生に頼る甚八。

 狭間へと甚八を案内する先生。

「ここから先お前さんは一言たりとも口をきいちゃならない もし取引を持ちかけられてもそれこそ沈黙を通すんだ 特に奥懐にいるのに馴れ馴れしく語りかけてくる奴には…」

「もし破っちまったらどうなるんだ?」

「お前さんはヤクザと取引した後 安心して眠れるかね?」

 鬼市では人と思えぬモノたちが物々交換でやり取りしています。一言も発せずに。

 彷徨う甚八に「サイ フ」とダイレクトに話しかけてくるモノが一体。

「ここは魂の灯り屋 魂の一部と交換に相応の願いを叶える」

 人形を並べるモノ…人形屋は甚八の望みを尋ね…

「ああ! 君が欲しいのはこっち!?」

 甚八の財布を出してきます。話さなくても通じるらしい。便利だけど、どこまで読まれてるのか分からないのは怖いな…。

「そんなに返してほしい?」

「じゃあ…キミの奥さんは元気?」

 突然出てくる旭さん…なんか場面飛んだな?

 一緒の帰り道。手を握られる。違和感。

「…なぁ 旭さん オレたちいつから一緒に暮らしてる? いや いつ結婚した?」

「ねえ甚八さん 今幸せ? いいじゃない 幸せなら 本当のコトなんて」

 …笑顔が怖い旭さん。

 過去の記憶。旭さんを前に申し訳なさそうな甚八。

「すまねえな旭さん あんたとは付き合えねぇよ オレぁさ ゲイなんだ 好きな奴もいる」

 旭さんも鬼市に迷い込み、この人形屋と会って取引をしたようです。魂の一部と引き換えに甚八の記憶を改竄。

 しかし財布の中にあったのは織座…先生の写真。新聞の切り抜きか何かでしょうか。 あぁ、そういう…。

 財布が本当に欲しいのなら魂の光を少しよこせ、と人形屋。魂が減っても寿命が縮むような事にはならない。

「腎臓ひとつ売るのと一緒」

 まさにヤクザみたいな物言いが出てきました。生臭過ぎるぞこの妖怪。

「どーも気に食わねえな…」

 ブチ切れる甚八w

「オレの人生はな ハナから全部オレんだよ!!! 人の人生手の上で転がしやがって!神サマ気取りか!どこがいい取引だ」

「つーわけで取引はしねえ!残念だったな!」

 威勢よくまくしたてました。そう、喋ってしまった。

 周りに人間がいると知れてしまい、追い回されるハメになった甚八。

「面白い事になった これで取引成立としよう さぁ持っていきなよ!」

 財布まで返してくれる人形屋。更に旭さん…の魂の案内で鬼市の出口まで導かれます。

「甚八さん ごめんなさい どうせ夢だと思ったの まさか本当に人の心が手に入るなんて… ごめんなさい あの人といい縁ができるように祈ってるわ」

 人形屋、まともに説明していないようですね。人間社会なら説明義務違反で契約解除ですね。しょせん人外なんで法の拘束とか意味ありませんが。

「お前さん何をしでかした? ずいぶんオモシロイのに追いかけられてたじゃないか」

 先生にガチ怒りされますが、それすらも甚八にとっては先生との距離が縮んだようで悪い気はしない。ですが…。

「お前さん取引しちまったね? それも一番タチの悪いのと」

 甚八が売り渡したのは「常人としての日常」。向こうと縁ができた甚八には、これから望むと望まざるとに関係なくああいったモノが関わってくる。

「おおかたそれを覗いて楽しもうってんだろう 何と引き換えたか知らないがそれでチャラってわけだ」

 向こうと縁のある者同士仲良くしようと手を差し出す先生。この人との縁が喉から手が出る程欲しかった甚八にはご褒美…になるのか?w

 この先生、噂の通り向こう由来のアイテムを集めるのが趣味で、甚八を誘蛾灯扱いw

 でもまぁ、惚れた弱味で付き合ってしまうのですねえ。これ先生が女性だったら、鼻持ちならない悪女になってたはずですw とぼけた爺さんのビジュアルでかなり描写がマイルドになってます。

 ネットを漁ってみると、この先生と甚八の関係をBLと表現している事が多いですが、あんまりハードな描写はないのでノンケな方にも安心して勧められます。それこそ「きのう何食べた?」レベル。あっちは高齢なんで枯れてる感じですが、こっちは相手がどう思ってるか掴めないのでブラトニックに留まってる感じ。先生の一挙手一投足に一喜一憂する様子は相当笑えます。乙女かw

 …で、ここからちょっと私見なんですが、この“オバケ先生”ホントに原田織座なんでしょうか?

 先生、自分から名乗った場面ないんですよね。直接名を尋ねられた事もない。対外的な「原田織座」と甚八の前にいる「オバケ先生」が微妙に繋がっていない気がするんですよね…。

 怪異との関係などでも“認識”が大きな意味を持っている作品でこれは意味があるような気がします。…違うかな?

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