逃げ上手の若君 12巻

 鎌倉入りした北条軍。集った武将たちを前に堂々と挨拶する時行。

「未だ未熟な北条の子として言える望みはただひとつ 民も武家も公家も 無駄死にが一人でも少ない世を だから皆も命を大事に 今しばらく私に力を貸して下さい」

 民たちにも受け入れられ、政務も問題なく引き継ぎ…。

 時行は昔馴染の兼好法師と再会を喜んだり…あの吉田兼好です!時行って実は凄い家の出なんだ、と改めて気付く逃若党の面々。いやまぁ最初から「北条」なんですがw

「さあ行こう!皆に紹介したい人がいる きっと皆も名前くらい知ってるぞ!」

 さて、盤石な体制を固めんとする北条ですが、京では足利尊氏が着々と鎌倉奪還の準備を整えていました。

「絶対大丈夫 この尊氏を…征夷大将軍にお任じ下されば」

 しかし後醍醐帝は尊氏を警戒し、将軍位は与えずに出陣を促します。

 北条残党に対して直義が持ちこたえている内に帝を焦らせて将軍位を渡させる予定が、時行の迅速な行動でスケジュールが狂ってしまった。一刻も早く北条を叩き潰さねばならない。

「…いらつくなァ…」

 一瞬らしくないセリフを吐く尊氏。

「まあいいや 黙って出陣してしまおう! 時行の首と引き換えならさすがに帝も頷かれよう 後の事はどうとでもなる!」

 クソ雑に出陣を決めてしまいます。

 その頃、時行は頼重と報国寺という寺を訪れていました。足利家時という男を弔う寺です。

「我から数えて三代後の子に天下を取らせよ」

 そう願って腹を切ったそうです。その怨念の子が尊氏。

 神の世から人の世に変わらんとするこの時代、神力は生命力に変換されて人に渡る。

 だがその神力が今、ひとりの男に集中している。それによって神のごとき求心力と強運を持つに至った…それが足利尊氏。既にその神力は頼重を越え、未来が見えなくなっている。

「奴が天下統一し日本中の信仰を独占すれば…人々に渡るはずの神力は全て尊氏に吸い上げられ 人の発展は止まりまする」

 実際、ここから信じられない戦が続きます。とても潰れるはずのない鎌倉大仏殿が暴風で倒壊。温存されていた名越軍が大ダメージを受けます。これは魅摩の神力によるもの。

「クズ北条の乱のために 利用目的で私を騙して近づいた 友達だと思ってたのに! 真っすぐで綺麗な武士だと思ってたのに!」

 …ホントに利用しようとして近づいたのならそれに気づかない魅摩ではないと思うのですが…「巡り合わせが悪かった」では納得できないのだろう事はわかります。

 東海道を進軍する足利軍を砦に立て籠もって削るはずが、あっという間に破られ名越軍と三浦軍が瓦解。三浦家当主時明も討ち死に。

 破竹の勢いで進軍する足利軍は相模川で時行率いる北条軍と対峙。流石の足利軍も激戦を経て成長した北条軍は一蹴とは行かず、総大将尊氏にまで軍が迫ります。

「うわああぁぁ もう駄目だ敗けるぅぅう無理だよぉ直義ぃ師直ぉぉあ自害しかないかなぁ?ねぇ自害しかないかなぁ?自害しかない」

 いきなり自分のクビを刺す尊氏…はぁ?

 しかし死なず。師直なんか落ち着いたもんです。

「問題ない 強運のお方だ 急所に刺さった試しがない」

 短刀を事もなげに抜いて

「死なないなァ…仕方ない戦うか」

 覚悟を決めた尊氏から後光のようなものが見え…北条軍から投降者が続出。いや何で!?

 尊氏が絶体絶命の時、決まって敵が一斉に尊氏に降参する…驚いた事に、これ史実らしいです。創作でこんなの出したら「リアリティがない」とか言われてボツになってしまうと思いますが、史実なら仕方がありませんw

 一応これの正当化として「神力」というギミックが使われていますね。

 投降した兵の中には逃若党として時行に付き従っていた吹雪もいました。

「こうも深く尊氏様の力に中毒(あた)る奴は…以前にも力を浴びているか心に強い飢えがあるかだ」

 高師直に見出され、仮面と「高師冬」の名をもらう事に。足利側として立ちはだかってくるのでしょうか。

 いずれにせよ北条軍は瓦解、敗走。

「なんなんだよあの尊氏は! あんな事が出来るなら…戦う以前に勝てるはずねーだろが」

 玄蕃の言う通り。理不尽としか言いようがありません。

 頼重は残存勢力を集めて最後の戦いを挑もうとします。

「力及ばず申し開きもありませぬ 私が奴を食い止める間にどうかお逃げを」

 …頼重は一連の責任を取って死ぬつもりです。時行は死ぬ事は許さない、と食い下がります。主君であると同時に我が子とも思っている時行を無事に逃がしたい頼重。

「都合よく父親面するな!主従の分をわきまえろ諏訪頼重!」

「…仰る通り はなから我らは他人でした そなたとは郎党の縁も切る 今よりこの戦は私の戦だ」

 …物事には、特に大きく失敗したときには誰かが責任を取らないと納まらない事があります。そうやってキリをつけないと、それこそ無駄な犠牲が増えることになります。時行を再起のために逃がすとしたら、残すべき首は頼重くらいしか…。

 史実ではここで雌伏した後、実にあと2回鎌倉を奪還する時行ですが、おそらくそのどこかで尊氏から「神力」を抜く戦いがあり、それが「逃げ若」としてのクライマックスであろうと思います。表立っては逃げ続けた生涯の時行が日本の未来を救った…的な。

 …これだとアニメもホントに最後までやらないと訳が分からないまま終わる事になるなぁw 原作、アニメ共構想を全う出来るよう応援いたしますよ!

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