天幕のジャードゥーガル 3巻

 大カアン·オゴタイの体制にヒビを入れる為には次男チャガタイに仕掛ける必要がある。

 秘密の内にチャガタイと顔を繋いでおきたいファーティマですが、なかなかチャンスがない…明確に疑ってくるカダクとかもいますし。

 なぜか大カアンの第四妃モゲに出くわし…なぜか「迷子だな」と決めつけられて連れ歩かれたりw

 そのときファーティマは「モゲの真珠の耳飾りがない」と気づきます。聞けば「大カアンが売っちゃったんだ」と。

 困窮している民にメロンの代金として渡してしまったそうで。

「いずれまたそれは君のところに戻ってくると思うよ」

 予言めいた事を言う大カアン。ちょうどそのとき、モゲは大カアンから呼び出しを受け

「君にプレゼントだ」

 その手にはあの真珠の耳飾り…!

 聞けばある商人がイラン東部の町で見つけ、ここまで持ってきたらしい。

「このような立派な耳飾りは世界の支配者にこそふさわしい そう考え私ははるばるここへ献上しに参ったのです」

 後でファーティマが聞いたところ、

「そんなのモンゴルが今一番稼げる場所だからに決まってる」

 商品を一番高く買ってくれるのがモンゴルの皇帝だと踏んだから、皇帝に取り入る為に献上品を持ってきた、と。

 道のりだって遠かっただろうしモンゴル人は怖いだろう、と聞けば

「いや? むしろ前より安全に旅ができたぞ」

 これはつまりモンゴルが街道を整備している事、モンゴルの勢いが広く他国に知られている事を示します。それを試す意味もあって耳飾りを放流したんでしょうね。物や情報の流れの中心をモンゴルに置くことで帝国を盛り立てる…オゴタイの考えているのはそういう事なんでしょう。

「俺の考えてること 金国を滅ぼしたらみんな聞いてくれるかな」

 どうしても武に傾いてしまうモンゴル人にオゴタイも手を焼いているようです。読み書きも大事だと思っている人が少なくてファーティマが帳簿つけとか手伝う始末w

 たまたま錬金術について書かれた本を見つけ、「アル·イクシール」…万能薬が作れる、という話をしたのをモゲが聞き、オゴタイの第一后妃ボラクチンに会う事に。

「ボラクチンは毒を盛られているのではないか」とモゲは疑っていましたが、実際は「鉱山のほこり」と呼ばれる薬の取り過ぎによる副作用でした。不老不死のため…とボラクチンは嘯いていましたが。

 ジャダ石を削って飲む事で毒消しとし、モゲの信頼とボラクチンの興味を引くことに成功したファーティマ。

 ペルシア語の本の内容を説明し、ボラクチンの懐に入っていくファーティマ。モンゴルが手に入れた知識人たちが多くトルイ家のものになっている、と聞いて爆弾を埋め始めます。

「なんだか恐ろしいです 兵も知識もほとんどがトルイ家に集まっているなんて…」

「であればこそ」

「トルイ家と協力することが大事なんだよね!」

「トルイ様も同じ想いでしょうか?」

 自分がソルコクタニに仕えていた事も利用して、ソルコクタニとトルイ家に野心があるかのように吹き込む…。更に、何故自分に打ち明けるのか?と問うボラクチンに

「私はオゴタイ様とあなたさまに希望を見ました お二人の賢明さこそこの世界を統べるのにふさわしい…と」

 ドレゲネさえ気付いていない二人の深慮遠謀。これに賛意を示すことで信頼を得るファーティマ。ですがこれを境に事態は大きく動く事になります。

 金国の軍勢15万を4万の手勢で打ち破ってしまったトルイ。勝利の宴に皆が酔いしれる中、ボラクチンと密談していたドレゲネはファーティマを遠ざけ…。

 オゴタイは毒を盛られ、床に伏せる事になります。その症状は「鉱山のほこり」!ボラクチンの持っていた「鉱山のほこり」が無くなり、ドレゲネの天幕から出てきた!

 捕らえられるドレゲネ。ファーティマはボラクチンからオゴタイを治してほしい、と頼まれます。

「あれは以前から大カアンへの恨みを公然と口にしていた そこにお前という知恵を得てこの凶行に及んだのだろう きっと最後にはお前に全ての罪を着せ逃げるつもりだったのだ」

 ドレゲネを信じていたファーティマが揺れる。

 ジャダ石でオゴタイの病状は快方に向かいますが、対外的に納得させる為、モンゴル伝統の祈祷を行う事に。

 …オゴタイの悪霊を封じた水を血縁の者が飲まなければならない、という流れでトルイが飲む事に。

「天よ もし罪によって兄上の魂を連れ去ったのなら あなたはもっと罪深い魂をご存じのはず」

 一気に飲み干すトルイ。

 …そしてトルイは死んでしまいます。

 ファーティマの思惑を遥かに越えたところでコトが起きました。

 ドレゲネは行方不明。トルイ家は大きく力を削がれ、オゴタイとボラクチンは盤石の権力を手にしました。

 もうどう見てもトルイは暗殺されてるんですが、オゴタイ(ボラクチン)の前で誰も言い出せません。

 ファーティマの元にはあの「原論」が。

「お前が欲しがっていると話したら快く譲ってくれたよ」

 権力を盾にソルコクタニから毟り取ったうちのひとつのようですね。ドレゲネから話を聞いたのか、ボラクチン。

「ファーティマ これからの帝国を作るのは力ではない 知恵だ 自分の知恵を存分に使ってみたいと思わないか? こんなに楽しいことはないぞ」

 生きる目的だった「原論」の奪還はあっさり成った。ひとつの国の中枢に関われるチャンスも目の前にある。

「もしかして私 もう前に進んでもいいのかも…」

 そのとき、柱が倒れる大きな音で我に帰るファーティマ…シタラ。坊っちゃんが落とした鉢のような、雷のような音!

 心にひっかかっていた事がはっきりする。

「ボラクチン様 私がなぜこの本を欲しがっていたか お聞き及びでしょうか?」

 父親が学者であったから興味を持った、と聞いているとボラクチン。

 ファーティマが「原論」と自分の関係を口に出したのはドレゲネに打ち明けた一度きり。ボラクチンはドレゲネからこの話を聞いたはず。くわしいことはわからないが…。

「ドレゲネ様は守ってくれたんだわ 私達の秘密をーー私たちの怒りを」

 ドレゲネを捜し、姿を消したカダクの天幕を探し出すファーティマ。

「俺だって今 ドレゲネ様を救うために手を尽くしてるんだよ 俺の主人 ドレゲネ様と大カアンのご長男 グユク様のご命令で」

 一連の陰謀の首謀者はボラクチンで間違いないでしょう。きっかけがファーティマの言葉だったのは皮肉としか言いようがありません。

 ただ、そうするとドレゲネの立ち位置がよくわからない。どうしてもメリットがない立場に追いやられてしまうのに、なんで一枚噛んでいるのか?ボラクチンと密約でもあるのか? この後の歴史にドレゲネの名前も出てくるので、ここで退場という事はないと思いますが…。

 多分、このボラクチンの誘いがファーティマが復讐の人生から抜け出す最後のチャンスだった様に思います。それが良いか悪いかは別にして。もうこの身が滅ぼうともモンゴル帝国を敵に回すしかない。それで世界の歩みが止まるとしても。

 ファーティマは多分そこまでわかっちゃうんでしょうね…。

 

 

コメントを残す