
ディッペル博士の研究室…そこは古びた器材が埃をかぶっている、まるで使われた様子のない部屋でした。こんなところで人造人間など出来る訳がない、と訝しむメアリー。
「まったく失礼極まりないな」
追いかけるように現れるディッペル。
「ディッペル博士 初対面の時に伺った生命を蘇らせる『起電機』とやらはどこにありますの?」
逆に詰問を始めるメアリー。エルシィと頭をすげ替えられた娘なと存在しない、ディッペルには頭部を移植するような技術はない…なら彼はエルシィに何をしたのか?
「赤いブーツの紐を結んだ時現れた あの『女』は誰ですか?」
狂乱したディッペルはメアリーに襲い掛かります。
「い…今エルシィの教育はうまく行っとるのだろう… このままいけば舞踏会で女王を護って殺し屋どもと戦って死ぬだろう! それでイイ!ワシはその〈怪物〉を造った功労者だ!! その名声をたかが女に邪魔させんぞ!」
メアリーを塔へ追い詰めるディッペル。
エルシィはお屋敷でメアリーを待ちつつ文字の勉強をしていました。
「奥サマがお嫌だったらパーシー様と踊らねえのは当たりめえだども…アタシが文字を…『本』を読んでみせたら 奥サマはビックリしてホメてくださるかなあ…」
頭の中にかかっていた霧が、赤い靴の紐を結んでもらって以来だんだんと晴れてきた。
ディッペルに止められていた靴紐。そしてもうひとつ止められていた事。
「首の傷は見るなよ怪物!」
首の包帯を取って傷を見たらどうなるのか。
「本当のコトを知ったらアタシがアタシでなくなっちまうような気がして…」
思い出す。メアリーの 武器も何もないのにいつも何かに立ち向かっていく勇気。
首の包帯に手をかける。
ディッペルにすっかり怯えているメアリー。男にはいつも「力」という切り札がある。自分は黙っているべきだったのか?
「いや!私は暴力に屈しない女を知っている どんな時にも自分の存在を驕らず昂らず主張していた」
今、自分の真実を知る権利と生きる権利が脅かされている。この「私」の権利だ!
それを守る為に…なるんだ〈怪物〉に!
スカートを切り、動きやすい格好にして逃げる。
「ディッペル博士 貴男は殺し屋の頭を村娘の頭にすげ替える手術なんてしていない ただ瀕死の女の怪我を治療しただけです そしてその時彼女に『今の自分を忘れてしまえ』という暗示を何度も繰り返し吹き込んだ その結果幼い頃のことだけ覚えている〈怪物〉が生まれた それがエルシィ 『催眠』という技術を使って」
果たして、エルシィの包帯の下には綺麗な首が。
…全てが繋がりました。まったくランダムな相手同士で首を移植するなんてゴシックホラーか「ブラックジャック」みたいな事、出来るわけなかったんです。当時の最新技術、催眠誘導で記憶をトばしていたのですね。その催眠術の技量とか、エルシィを治療した医療技術自体はたいしたものですが。
塔の頂上に追い詰められたメアリー。
「…エルシィの顔にも手を加えましたか?」
「元の顔をダンヴァーズが覚えているとバレるだろう? ワシが切り刻んでわからんようにしてやったのだ」
最低だこのオヤジ。
メイスを振るってメアリーの頭を潰そうとするディッペル。
「死ぬことなんか怖くない!私は〈怪物〉だもの!!」
「〈怪物〉はエルシィ 私はエルシィになる」
「回れ私 エルシィのように エルシィのために」
月動のような回転でディッペルを打ち据える!
「私を〈怪物〉と呼んだのは他ならぬ貴男でしょう? エルシィも…私も…私たちは呼ばれたその名で姿を変えますよ 貴男は私たちをなんと名づけますか?」
メアリーの気迫勝ちです。反抗する気力を失ったディッペル…ペーターを引き連れ、フィールド·プレイスへ戻ろうとするメアリー。
ペーターにエルシィの催眠を解かせるつもりですが、それはつまり〈七人の姉妹〉としての記憶を蘇らせるということ。刺客の記憶が戻ればエルシィは女王の護衛などしないだろう…ならば記憶を戻さず、このまま舞踏会に出して元仲間に殺されて消えるか?
「そうだ…私は一体どうしたいのだろう…」
「フランケンシュタイン」を出版した時を思い出し、悩み続けるメアリー。必死になって生み出した物語の真意が伝わらず、酷評され続けた。
「私は今回もエルシィのことで迷って悩んで必ず『終章』を書き間違えるのだ!」
屋敷に帰って来て会ったエルシィは…その「フランケンシュタイン」を読んで泣いていました。
「みんなかわいそうだ」と。
「生まれてきたらみんな…できることはしたくなるし…一人ぼっちじゃいたくねぇ…うめえもん食ってラクちんがイイし…誰にもいじめられんで幸せになりてえだよ… この本のみんなァただ…あったりめえのことを望んだだけだァ… それが…ぜんぶうまくいかなくって…とっても…とっても…かわいそうですだよ…」
「…そう…あ…ありがとう」
メアリーもまた涙を流すのでした。
結論として、エルシィの記憶は戻っていました。首の傷を確かめた事で。しかしエルシィとしての記憶も持っており…。
「奥サマ アタシは戦うだよ…」
「何言ってるのエルシィ!この前のジャージダ一人だけでも大変だったのに…殺されてしまうわ!!」
「だから…生まれ変わったら…ですだよ」
「…駄目よ…死ぬなんて私が許さないわ!」
「だどもそれがアタシと奥サマの『仕事』ですだ」
…しかし〈怪物〉メアリーは止まりませんでした。お屋敷からエルシィを連れだし、パーシーと共に逃がす!
「もう私は〈死〉を踏み台にする女じゃない 今度は〈死〉に抗ってみせるわ!」
すげえバイタリティですw その割にはティモシーに「エルシィいません」報告するときにはグダグダだったりするんですがw
舞踏会当日、しどろもどろになっているメアリーの後ろからドレスアップしたエルシィが!
「エルシィでございます…だ」
エイダに拾われたジャージダから〈七姉妹〉とその司令官〈父〉の潜伏場所を聞き出したエルシィ。バッキンガム宮殿での決戦を約していました。物語は最後の舞台、プランタジネット舞踏会に繋がります。
お互いの姿に勇気をもらい、それぞれの窮地を脱するメアリーとエルシィ。
メアリーは「女だから」と押し込められていた鬱屈と正面から向き合い、言いたいことが言えるようになり(それが100%良い事かはともかくw)、アトカースではなくなったエルシィは「ただ殺す」ことに疑問を持ち、自分で考え、姉妹に「生きててもらいてえ」とまで言うようになりました。この奇妙な出会いと成長に祝福を。
全ての結末は舞踏会を乗り越えた先にあります。次巻、最終巻です。
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