
「大砲とスタンプ」「戦争は女の顔をしていない」等、戦争の正の面も負の面もゴッチャに描く速水螺旋人先生。
ソ連…というかロシア大好きな先生が今回描くのは独ソ戦最悪の戦場…人類史上でも稀に見る凄惨な戦場となったスターリングラード攻防戦。その真っ只中で国家もへったくれも無く生き抜くアウトロー共のお話「スターリングラードの凶賊」です。
「きッ 聞いてくださいよ悪い話じゃない ドイツ兵が来てるんでしょう 僕はドイツ語ができます あなたたちのお役に」
「だからこうやって始末してるんだろうが お前ら囚人を」
NKVD…内務人民委員部…ソ連の治安警察ですね。そこの軍人が「護送するトラックがエンコした」という理由で囚人を射殺しています。斯様に戦場において人命は軽いもの…。
最後の一人が銃殺されまいと必死に喋っているところにトラックで通りかかったお嬢さん。
「ごきげんいかが 同志」
「『アンタレス』ジュリアン·ツァオという方はいらっしゃる?」
「僕だ 僕がそうです」
間髪入れず答える囚人。
「そう では伝言があります ママイが借りを返してもらうぞ、と」
徐ろに二丁拳銃を取り出し、ソ連兵を尽く撃ち殺すお嬢さん!
そのまま囚人を連れて逃げる。しかしその前に…。
「やっぱヒラヒラして落ち着かねえや やめやめ」
ガバっとドレスを脱いで…男なの!?
男の目的はスターリンの隠し資産1万ポンド。アンタレスが関わった工作で戦場のど真ん中で立ち往生しているとの事。ママイなる者の指示でそのカネを手に入れて戻る事でした。
カネを隠した村はすでにドイツ兵に占領されていました。さてどうするか、となったところで二人はドイツ兵に見つかり…突然叫ぶアンタレス。
「僕は日本人だ 特務機関の将校だ 保護を求めたい ソ連当局により拘束されていました こいつはNKVDの要員です」
…え?ボリシェヴィキの暗殺者と違うの?
息をするように裏切るアンタレスw
男を本気でぶん殴ります。
「さっきからうるさいぞロスケめ 文明人の話を邪魔するな うちのじいさんを旅順で殺しやがって 東京へ来てみろ 特高がそのおきれいなツラをたっぷりかわいがってくれるだろうぜ」
もう何が本当だかわからないな…。
ドイツ軍将校に取り入って1万ポンドのありかにたどり着くアンタレス。
同時に手榴弾が投げ込まれ、怯んだドイツ兵が次々倒されていく…あの男だ!
「宝石なんかよりずっとずっときれいなもの拝みながら死ねるんだ てめえ運がいいぜ」
スリ取った鍵を、殴ってる間に渡してたんですね。抜け目ないなアンタレス。
カネを積んで逃げる二人。
本物のアンタレスは「アンタレス」の横で殺されていたそうです。
「親玉を最期まで信じてましたよ 自分がそいつに殺されるのに 僕はごめんです くたばる瞬間までじたばたします」
その場の出まかせに後で辻褄をあわせてやってきたようです。
「間を置かずすぐに答えるのがコツですよ 逡巡しているとなにか企んでいると思われますから」
ペテン師の発想だ…。
この「アンタレス」ことトシヤ…トーシャとお嬢男…ルスランカの二人がならず者の宿場町、十字路砦を根城にスターリングラード攻防戦の表に裏に関わっていく事になります。
要塞化したスターリングラードにドイツ軍が突入する。戦場の中でも自分を保って来た古参兵が狂い、造られた英雄が沈む。しがらみを嫌った者が集まって来たはずの十字路砦すら権力闘争と裏切りから逃れられない。
さらにルスランカがかつて下に付いていた「公爵令嬢」なるフィクサーも関わって来て…。
1巻終了時点で1942年10月。攻防戦自体の終息が1943年2月。あと5ヶ月程を時系列に従って、トーシャとルスランカの二人を中心に描かれていくかと思います。
螺旋人先生独特のコミカルな絵柄でスプラッタな描写を真正面から描き出す描き方には、他にはない緊張感が感じられます。
策謀裏切り何でもありのストーリーと合わせ、正にいつ、どこで誰が死ぬのか分からない…逆の意味で「板子一枚下は地獄」を体現していると言えるのではないでしょうか。
トーシャとルスランカのどっちか片方くらいなら中盤くらいで死んてもおかしくない気がするしなぁ…。
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