黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ 6巻

「私は罪深き女ですから…旦那様にお仕事をいただけて幸せでございました」

 ティモシーに別れを告げるエルシィ。

「また私の前で馬を操ってみせろ」

 ティモシーの方もエルシィを認めた様子。

 ですがメアリーは怒り心頭です。なんで帰ってきたのか、と。

「私はね!アナタが心配なのよ!」

「アタシも…奥サマのコト…心配しただよ…」

 メアリーが見境無しに飛び出していくのを見るのは気が気ではなかった。彼女がキズつくのがイヤで戦った。

「…そしたら今『あの正面玄関から出てってもイイ』なんて旦那様からお許しが出ただ…アタシは奥サマを心配しただけなのに なんて幸せなんだべか…」

 正面玄関を開けた先には、お屋敷のメイドたちがズラリと。

「みんなアンタを見送りたいんだってさ」

 エルシィのやってきた事が間違っていなかった証拠ですね。彼女は受け入れられた。

「み…みなさま…さようなら…」

「ちがうよエルシィ!あたいたちのあいさつはそうじゃないよ…!いつもみたいに言ってよ…」

 飛び出して泣きじゃくるメイ。

「んだな… んだばみなさま また明日!!」

 メイドたちが「また明日」と返す中を歩くエルシィとメアリー。死ぬかもしれない戦いに赴くエルシィに「明日」を約束する言葉。生きてまた会おうという強いエールです。それはなんと希望に溢れた言葉でしょうか。

 そしてそれは虐げられていた女たちの反撃の狼煙でもありました。男が出来ない、女王の護衛に向かう…女。メアリーが目指した「男と対等に渡り合う女」の姿です。エルシィは笑顔で死地に向かう事が出来たのです。

 バッキンガム宮殿、プランタジネット舞踏会。ダンヴァース大尉の親衛隊がヴィクトリア女王の周りを固めます。月動に対応する訓練を積んだから〈怪物〉の力は要らない、と自信満々ですが…。

「〈7人の姉妹〉はけっして標的を諦めない」

 エイダと共に舞踏会に紛れ込んでいたジャージダが呟きます。

 果たしてその通り、女王の周りを護っていた近衛隊が一斉に足を斬られ…。

「こぉんなぴかぴか間磨きたてた床のほうがアタシたち大好きなのよ くるくる回りやすいからって言えば 間抜けな指揮官にもわかるかしらねえ…」

 〈7人の姉妹〉は本来屋内での暗殺を得意としていた…その回転剣術も不整地よりも平らな床でこそ真価を発揮する!大尉は読み違えた…!

 ダンヴァース大尉を殴り飛ばした〈悲哀〉…ピェチャーリ止めたのは!

「ピェチャーリ…ダンスに無理強いは禁物だ 今 私が踊ってさしあげる」

 エルシィ!

 靴の紐を締める。白いドレスを脱ぎ、黒いドレス…喪服を露わにする。共に育った姉妹を葬る決意と共に。

 ピェチャーリ、〈陰気〉…ムラーチノスチ、〈冷血〉…ジェストーコスチ、〈憂鬱〉…ムラーチノエ、〈執着〉…ブリストラースチェ。

 5人を弱点をついたり隙を狙ったり、メアリーたち(ペーターもw)の協力を得たりで倒して行きますが、エルシィもボロボロです。それでも姉妹たちにトドメを刺さないのは

「それは屈辱でしょう?」

 …なんてエルシィは言っていますが、単純に殺したくないんでしょう。アトカースからエルシィで一番変わった事なんでしょうね。

最後の一人、〈嘆き〉…ゴーリェが対峙します。アトカースの次にリーダーとなった、アトカースの次に強かった姉妹…。

「私は…私よりも幸せな女は赦せない…『満足』しているオマエもな」

 歪んだ価値観を持つゴーリェは「満ち足りた顔」で戦っているエルシィが気に食わない。 その満ち足りたモノこそがアトカースがエルシィとして得たモノ…メアリーと出会い、パーシーと出会い、お屋敷で仲間たちと働いた日々。

 激しくぶつかり合い、剣を刺されながらもゴーリェを捕えるエルシィ。一刺しで生命を取れる!

「アタシたち…女の誇りは…ゆるす…ことだ…チャンスってのを与えることだ だから…ゴーリェ また あした…」

 見事女王を護り切ったエルシィ。逃げ出して再起を図ろうとした〈父〉はパーシーが捕え、後顧の憂いが無くなった彼女はダンヴァース大尉の前に。

「アタシは…暗殺者アトカース…この国の所有物…どこへ…なりと…連れてって…くだせえ…」

 あぁ、そんな話でしたね。

「淑女エルシィ 失礼ながら人違いをされているのでしょう たぶんお目にかかるのは初めてです 表玄関で待っているのは貴女の馬車ではありませんか」

 いい機転だ大尉!

 エルシィはパーシーの腕に抱かれて馬車へ。瀕死の重症です。

「お…奥サマ…アタシ…うまく踊れた…だか…」

「ええ…とっても素敵なステップだったわ」

 メアリーはエルシィのその後を語りませんでした。ただ、

·ディッペルは本当に天才外科医だった。できなかったのは死者蘇生だけ。

·エイダが他にも医者を大勢連れてきた。1000ポンドも役に立った。

 …それで「詮索するな」と言われても…シェリー先生伏線の張り方上手くないですよw

 エルシィのブーツの残り片方を収めに来たシェリー。

「私の中の〈怪物〉はね 私と一緒に生きていくの…私が放さない…」

 そう言い残して去ります。己の心に決着をつける事が出来たようですね。

「また明日!」

 …7年後、学芸員にメアリーの死を伝えに来たのはジェイン準男爵夫人…爵位を継いだパーシーの奥さん。

 ですが彼女が最後に口にした言葉は…

「また明日!」

 三日月が照らすロンドンで回る 回る

 三日月よ、怪物と踊れ

 黒博物館最長のエピソード、終了です。

 作家メアリー·シェリーの挫折と復活に女王暗殺未遂事件を絡めた壮大なお話になりました。

 女性の地位向上にも言及して希望を持たせる終わり方にしたのも良かったですね。偶々ですが現実でもコンプライアンスが盛り上がって行ったのは密かに面白かったですねw

 アトカースのときに埋まらなかったモノがエルシィのときには短時間で埋まっていく。人は人との繋がりでしか人になれないのでしょうね。 それが強さにもつながるのであろう、と信じたいです。

 ともあれ藤田先生、お疲れ様でした!

 次回作も早めにお願いしますw

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