
オカルトと現実の間をフラフラするミステリー「ないない堂」2巻です。キャラも固まってストーリーが回り始めた…かな?
「地蔵盆の水辺」
地蔵盆…日本のハロウィンみたいなもんですね…の準備で和尚と知り合った少年勝也。東京から引っ越してきた彼は、溺れる子供を助けた事から地元の子供たちと妖怪「ガタロウ」を探す事になります。同時に「ないない堂」に「水の中に住む得体の知れない生物に盗まれた携帯」を探して欲しい、という依頼が。
ガタロウとは要するに河童のこと。日本中にあるいろんな呼び方のひとつ。
「子供が水の事故に遭わんように脅かすために河童の話をするわけやろ? 気ぃつけんと河童が水に引きずり込むって 実際襲われましあれは河童や」
銀花の「見通し」にも現れるガタロウ。ただの民間伝承かと思われた河童探しに賞金が付き、大企業の粉飾決算問題にまで発展していきます。
「幽霊の正体観たり枯尾花」な話なんですが、結局なんてことない自然の姿に人間が勝手な都合を押し付けて認識を歪めているんたなぁ、という結論ですね。
銀花の和尚に対する扱いが絶妙に雑でいい味出してますw
「いざという時は無鉄砲な大人を盾にしてあんたらは逃げたらええ」
その割に事件の真相に気づいたのは全て見ている銀花ではなく、彼女の集めた証拠から推理を組み立てた和尚だったりします。
これはこれでバランスの取れたいいコンビですね。
「丑の刻参り」
和尚の大学院時代の同級生、船場千鶴がないない堂に依頼を持ってきます。彼女は弁護士になっており…司法試験通ってるんですねw…その依頼人の代理だとか。
依頼人の大江山はネットで話題の「丑の刻参り殺人事件」の容疑者。借金のトラブルで高利貸しを殺した容疑なのですが、大江山本人も殺害を自供しているのですが…その手段が呪殺。藁人形に釘打って呪い殺した…と。
「僕には神の力が宿ってるんです」
これ不能犯というやつです。「犯罪を意図して実行したものの、その結果の発生が不可能な場合」の事で、検察側は具体的な犯行経緯を立証出来なければ大江山を起訴出来ません。
妙な状態なんですが、更に大江山の依頼というのが「なくなったら借用書をみつけてほしい」。借金は完済したのに高利貸しがごまかすために借用書を隠したに違いない。
「呪殺はやったけど借金の踏み倒しはやってへん!」
…言葉はぶっ飛んでますが、釈放される前提なら借金の有り無しを気にするのもわかると言えばわかる…。
銀花の「見通し」は大江山の顔に能の「鉄輪」の面を見せました。夫に裏切られた女が怒りの余り鬼と化して夫を呪い殺す話。
まぁ呪いなどあるわけありません。トリックが暴かれ全てが終わったと思われた時、
「あかん 『見通し』で鉄輪が現れた なんか見落としてるな」
銀花の呟きで改めて考え始める和尚。「跡見よ蘇婆訶」振り返って検討し、更に奥の事実に気づく。いいように利用され、全てに裏切られた男が一匹の鬼となっていた…。
鬼って何なのか、について銀花が言及する場面があります。
「自然は調和してるけど人の心はそうはならん 他所見して石で転ぶのは調和や でも人の心はそうは思わん 石に何かあると考える 災いを呼ぶ妖怪として人の心が作ったもんが鬼や」
人が納得できない自然現象が妖怪なら、銀花も妖怪と言えるのではないでしょうか。
彼女の「見通し」は、おそらく見聞きしたことを無意識で再構成して意識に働きかける行為…一般人が使わない脳の領域を使っているという事であろうと思います。
ただ、それは知らない人から見れば妖しげなオカルトばなしになってしまうでしょう。
分からないところで調和しているものを、目の前だけで辻褄を合わせようとして超常のものになってしまうのは、ちょうど鬼や妖怪と同じプロセスです。
銀花もそこで悩み、人間から排斥される時が来るのでしょうか。 …それとも既にそこは経験済み?
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