異世界ありがとう 5巻

「おうい、誰か回復士か聖女はいねえか!?」

 半魚人との戦闘後、船上では傷ついた冒険者たちの治療が始まっています。結構洒落にならない死にかけの奴もいて…シイナ一応聖女なんで治癒魔法を行使しようとしますが…あんまり効き目がない。やっぱりカルマが低いのか。 心臓マッサージをやってるチバの方が確実に救命できていたり。

 ついでに例の誘ってきた冒険者ベイルードに祭り上げられたり。

「この船に乗っているのは…俺たちだけじゃあない 大魔術師レゼーネの一番弟子にして…宮廷魔術師『砂塵のメノウ』が…!この船には乗っている!」

 …誰それ? とりあえずこっちの世界の有名人らしい。船内の混乱を収めるために、一番活躍したチバをダシに使った形ですね。

 更に夜の大陸で自分たちとパーティーを組まないか?と申し込んでくる…。 まぁ予想通り勧誘したのはチバだけでシイナはほったらかしなんですが。

「あれだ 荷物持ちも重要な役割だよ」

 散々って言うかハッキリしているって言うか…。どうもこのベイルード、傭兵していた頃に平気で味方を犠牲にした、という噂もあって。生き残る為に何でもやる系のようですね。

 チバもその態度にあまりいい印象は持っていないんですが、いつもなら真っ先に騒ぎ出すシイナが黙り込んでいます。

「言えるわけない! おれには…言う資格がない!」

 戦闘で役に立たないのはともかく、治癒魔法がほぼ効かずに冒険者を死なせてしまったのが効いているようです。もしこれがチバだったら…!

 悩むシイナ。

「悩んでいるな若人よ… 前途洋々たる若者の悩みはこれすなわち全人類の悩み…! その悩み拙僧が解決してやろう…! 今なら特別に金貨1枚でな」

 …胡散臭い呪術師のおっさんが胡散臭いフレーズで入ってきました。特殊詐欺しかけようとしていたときそのまんまなんで、シイナは疑惑マシマシですが、どうも本当に相談に乗ろうとしている様子…。

「自分を信じるということはだな 自分を信じることではない… 自分を信じる仲間を信じるということだ…!」

「頭の中に妄想の仲間を作るな 目の前にいる仲間を信じろ」

 要するにチバにちゃんと思ってることを話してこい、と。結構まともな事を言うな、おっさん…。

「聞いてくれ チバ! おれは おれはおまえを守る自信がない!」

「にもかかわらず! おれはおまえと旅をしたい! そ、それもできるだけ楽しくだ…! なので…! まことに勝手ながら…! 結果的には…あ、あの二人と組むのは嫌かもしれない…!」

「などと考えているのですが…ごっ…ご検討願えないでしょうか…!」

 う〜ん、中身の年齢が微妙に出てる、なんだか半端な社会経験を感じる物言いだw

 シイナの精一杯wを入れて二人はベイルードたちとは組まない事に。

「俺はたとえ 俺のわがままでシイナが死んでも後悔しない! だからシイナも俺が死んでも後悔するな! それで俺たちは対等だ…!」

 男前過ぎるなチバ。 体は女だけど。

 まあまあ丸く納まって続く船旅。ギルバートンがシイナに言い寄って「俺は中身おっさんだ!」と告白したのを受けて

「男でも 構わない!」

 …あー、そういう人かギルバートンくん。だからシイナに惹かれたのか…。

 どうしても無理、と拒絶されたギルバートンのメンタルボロボロのところに彼が絶対必要なイベントが。

 凪の海”合奏海“で、船乗りを歌で誘い海に引きずり込むモンスター、人魚。その歌に対抗するため、吟遊詩人の歌が必要なのですが…。

「失恋の歌じゃねーかー! うがあああ やめろ!やめてくれええ 心のささくれをめくるなああ!」

 …まぁ、魔力が乗っていれば歌は何でもいいらしいので…。

 一晩中歌い続けるギルバートン。本来は2〜3人吟遊詩人を雇って交代で歌わせるところを船長がケチってギルバートン一人しか雇わなかったそうで。そりゃ消耗します。加えて精神状態最悪…。

「たとえ想いが届かなくっても 彼女は僕が死んても守る…! と、ここまでをワシから伝えてくれと言うておった…!」

 以上、同部屋の呪術師のおっさんの証言。結構図太いぞあいつw

 次の夜、凪は続き、再びギルバートンが歌い始めます…が、ついに力尽き、膝をつく。

「無理すんな! おれも歌うから一緒にやろう!」

 シイナです。見ていられずに出てきたか。ついでに身体が借り物だからこの世界では誰の想いも受けられない、と説明。

「シイナさん…もし、もしもこの世界じゃなくシイナさんの世界で出会えたら…結末は少しは変わっていたかな…?」

「うむ…まあ、可能性はね 無限大だよ君ぃ…!」

「…ありがとう」

 立ち直ったギルバートン。しかし人魚は数が多い!二人で押し返せるのか!?

 ギルバートン曰く、歌い手と無関係に魔力が乗歌がある、とのこと。

「長い歴史の中で多くの人に愛され、連綿と歌われ続けてきた歌…!」

 この世界にはそこまでの歌はないが…

「他の冒険者から幾度か聞いたことがあります 異世界人の世界は…この世界と比較にならない巨大な発展を遂げていると あるんじゃないですか?シイナさんたちの世界には この世界とは比較にもならないほど大勢に愛されてきた歌が…」

 チバが広域魔法かまして人魚が怯んだ隙にシイナが歌い始めます。日本語で。

 恋人にフラレた夜。真冬の深夜に口ずさみ、涙をこぼしながら見上げた空。輝く星。

 一コーラス聴いただけで伴奏を合わせてくるギルバートン。腕は確かです。そんなら…とこちらの世界の言語に直して歌い始めるシイナ。冒険者たちも歌い始める。

 幸せは雲の上に 幸せは空の上に

 全世界的にヒットしたミュージック。おそらく数億人の口に登った歌。

 作詞 永六輔 作曲 中村八大

 坂本九 「上を向いて歩こう」

 人魚たちもいつの間にか退いて。

「…ああ、シイナさん… あなたを好きになって 本当によかった」

 シイナの挫折から再起wのお話でした。 まぁ聖女って歌うものですし(?)、能力的にはいい落とし所なのでは。

 そしてこっちの世界のテクノロジーではなく、文化が評価される流れっていいですね。確かにメディアの発展は世界間で大きな差があるでしょう。そこで磨かれたコンテンツに力が宿る、というのは希望に溢れるいい話ですね。自分たちも何某か関わっているような気分になるw

 しかし伝え聞くだに夜の大陸って怖いとこてす。話の通じなさは「ハンター×ハンター」の暗黒大陸並み。 …チバとシイナは攻略ではなく、ただ通るだけとはいえ明らかに実力不足。ベイルードたちとは別行動としても仲間がほしいところですね。

 ギルバートンと呪術師のおっさん? ダメだろーw

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