新九郎、奔る! 16巻

「首までは取らぬ! 疾うこの地より去ねいっ!!」

 焼津の代官所を襲撃、強引に代官を追い出してしまった新九郎。 そのままぶつかり合いに発展するかと思いきや。

「そこで次は引いてみせる」

 あと三ヶ月、代官の更迭を待つ、と小鹿側に通告します。事を荒だてるつもりはないから年内には条件を達成しろ、と。

「なに、三月と言わず半年でも一年でも履行を引き延ばしてやればよろしかろう あちらに何ができようか」

 強硬派の福島なんかはこの猶予に自軍の足場を固める事しか考えていないようですが…。

「おう!その通りじゃ!! 既成事実を作ってしまえばそのまま通る!昔ならばいざ知らず、室町殿が討伐に来るわけでもあるまい!!」

 しかしそんなこと言ってる内に近江六角に向けて将軍義尚の親征が開始。 これ自体は政所の貞宗にも相談なしの…言ってしまえばあんまり考え無しの軽挙なんですが、このお陰で幕府に逆らう形になっている小鹿一党は討伐対象となる可能性が否めない事に。

 浮足立つ駿河。ただ病の重い新五郎自身は養子・孫五郎に家督を譲る為に一戦交える覚悟は決まっている様子…。

「い、戦にしてはならぬ!」

 龍王丸の方はまだ戦にならない方法を見つけたい様です。

「み、右腕が左腕を切り落とすようなものじゃ! お、小鹿を失えば駿河は弱くなる!」

「わ、儂は怖がりの弱虫じゃ 駿河を強い国にしとうても一人では無理じゃ」

 度胸はないしトロいし…しかし大事なところを分かっている。 …ただ知恵も足りないのでどうしたらいいのかわからない…。

 どうにか穏便に事を収めたいと思っているのは龍王だけではないようで、秘密裏に新九郎に接触してきたのはなんと新五郎の奥方、むめさん。自身を人質として差し出す事で小鹿側が簡単に戦端を開く事が出来なくなり、また龍王側も人質を取った事で家督相続の期限を猶予する条件を守らなければならなくなる…。両陣営を縛る一手です。

「駿府にこのことを知らせる」

 対して新九郎はこの状況をさらに利用しようと。 新五郎が人質を出してきた、と触れ回れば新五郎に強硬姿勢を期待していた国人衆からの人望は地に落ちる。

 …新九郎悪い顔です。

 水面下の地固めが続きます。小鹿は上杉からの助力を得られず、浅間神社…寺社勢力も「小鹿への義理は果たした」と中立宣言。

 さらに龍王側は国人勢の問題を解決してじわじわ味方を増やして…有り体に言って時間をかける程龍王側が有利になっていく感じ。

「お、会うてみたいのじゃ 新五郎殿に!」

 なんと龍王から新五郎との直接会談の提案が出ました。 むめや一緒に来た養子・竹若の話からその人柄を察し、腹蔵なく話せる機会がほしい…と。 …考えてるよ、ちゃんと。

 両勢力の中間、得願寺で会談か実現。

「し、新五郎殿 わ、儂には父がおらぬ この国の事もよう知らぬ 本日これより父のように儂を支えてくれ!」

 新五郎をまるごと抱え込もうとするような龍王の弁。頼りなくはありますが。

「よほど器が大きいのか…それともやはりただの愚か者なのか… もしも前者であればーー孫五郎は龍王丸殿の許で働く方が幸せかも知れぬ…」

 館に帰り、方針を変えようかと考えた新五郎ですが、その直後に昏倒…。病気の進行なのでしょうが、一服盛られたのでは?という疑惑はどうしても拭えず。 また福島が焚きつけるし…。

「卑劣な…奥方様や竹若を人質に取った上 御屋形様に毒まで盛るとは…赦せぬ!!」

 後継者候補、孫五郎がその気になってしまいました。

 孫五郎は今川家の家督相続の祝宴を開く、と各地に知らせ…その話は当然新九郎の耳にも入ります。

「家臣全員をここに集めよ! 軍議を行うーー」

 孫五郎自身は戦にまでする気はなかったようですが、福島たちに持ち上げられてもうやるしかない、という状況に持ち込まれてます。龍王側との取次を務めていた堀越源五郎も討ち取り、もう後には退けません。

 ここまで状況が進んでしまってから新五郎の意識が回復。 …もはや他に道はない、と覚悟した新五郎。

「丸子を落とせ! 道はそれしかないと心得よ!」

 見た目新五郎側の方が勢力は大きいのですが、万全の準備をしていた龍王側はよく耐え…てか調略も結構済んでるんだろうなぁ…。

 戦況が膠着する中、新九郎率いる部隊は駿河灘を船で越え、清水湊へ!

「丸子攻めの兵を呼び戻せ! いやな予感がする!!」

 咳き込みながらも指示を飛ばす新五郎。 …しかしもう間に合わない?!

 新五郎は目覚めた時に手遅れを予感したのではないでしょうか。だから敗けた時に責を負う為…あわよくば孫五郎の命を安堵する為に大将を取ったのでは…。

 いや、主君義忠への憧れでしょうか。どうせ死ぬのなら一瞬でも天下を目指してみないか…義忠のように。罪な男だ。

 ある意味下克上。今川新五郎は早すぎた戦国大名だったのかも知れません。

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