
「…我慢出来てるか?」
「ーーモチロン 今日なんて落語すらしてませんよ」
真打昇進試験を前にしてのまいけると志ぐま。
「落語家として一人前」が通常の真打の基準なんですが、阿良川一門においては意味が違います。
「”芸を極めし者“を真打と認める」
それこそ大看板クラスの腕前を求められる…。破門騒動のせいもあってここ数年挑む者すらいなかったその試練に挑むまいける。
しかしこの大事な時期にまいけるは“落語をやってない”?
あかねがついていった営業仕事でもカラオケ歌ったり演芸やったり三味線ひいたり…。
「決めてるんだ ”見せたい“より“見たい”を選ぶってね」
観客が楽しいのが一番、エンターテインメントに徹する…という話でしょうか?
そんな状態で迎えた真打昇進試験。
「全身全霊!! 心から応援しています!!」
「うん!! 頼むよ」
「心配なんてしてませんから」
「声 震えてるよ」
「兄さん!! 真打の成り方!! 勉強させて頂きます!!」
「言ってくれるねー しょうがない 範を示そうか」
享二、こぐま、あかねの激励を受け舞台に上がる。
審査員は党首一生と、四天王のうち師匠の志ぐまを除いた3人…つまり志ぐま一門を敵視している全生が票を持っていまして…。
「無理だけどねっ!!」
この人は陰謀巡らしてる時すげぇ楽しそうなんだよな〜。
…客に媚びる手合いのやる事は全て読める。何故なら自分もそうだから。まいけるのやること全て潰してやる…!
わざわざ前説で前回の昇進試験の話題を出し、思うさま場を冷やす全生。
「勘違いしないでね 私は期待しているんだよ あんな目に遭ったのに懲りもせずに弟子を送り出して結果まで前回と同じだったら師匠としてどうなの!?ーーって感じでしょ!?」
志ぐま一門の敵愾心を煽る。メンタルから削ってまともに高座をやらせない気か。
「ーーお前なら楽しめるさ」
「モチロン 最初からそのつもりですよ」
高座に座るまいける。羽織を脱ぐ。
「えー今の時代趣味…”遊び“なんてのは様々でございますが 嘗ては相場が決まっていたようで」
軽快で流麗な喋りで音として客を乗せる“唄い調子”で場を温めようとしますが…不発。
「私が味わってきた屈辱!!苦しみ!! その全て。味あわせてあげよう!! どうだ!!楽しいだろ!! 阿良川まいける!!」
…いわゆる”本格派“に引け目があるんですね。ただそういう芸で登り詰めたのは間違いないのですが。 全生の一生や志ぐまに対する複雑な感情が感じ取れます。
「随分な言い草だな じゃあ…何かい? 全員…俺が死ねばいいと思ってんのかい?」
ゾッとするような口調で話し出すまいける。
この演目はチャランポランな若旦那が蔵に閉じ込められ、心を入れ替えた時には情を交わした芸者が亡くなっていた…という人情噺『たちきり』。
前半の軽薄さが後半の“泣き”に繋がる”感動”の芸。
「驚くよね 今の兄さんしか知らなかったら でも昔を知ってる人からすれば寧ろこっちが本来の姿 まいける兄さんは元々バリバリの技巧派だったんだよ 天才的なレベルのね」
かつてチャラけていたまいけるは志ん太破門の後変わりました。
「俺はもう…一番弟子ですから」
自分をひけらかす事はなくなり、客に尽くし、弟弟子たちに目をかけ…滅私奉公に勤しむ。 自分がしっかりしなければ、という責任感故か。
蔵住まいで自問自答し、己の行いを反省した若旦那のように。
志ん太が破門になって、でも自分には何も出来なくて。
会えない寂しさの余り死んでしまった芸者、小糸の事を今更知ってしまった若旦那のように。
「なんで…なんて俺ぁバカなんだ」
今の俺なら演れると思ったんだ 軽薄 喪失 再生 俺が歩んできた人生を 俺が見せたい噺を
前半の軽さが後悔の念を引き立てる。
線香が燃え尽き、三味線の音が止むラスト。満場の拍手を得ましたが…。
「足らんな」
一生バッサリです。アウェーな状況から掴み返したのは確か。しかし何人か最初から寝たままスルーした者たちがいた。「取りこぼした」。
「掴み切ったと言えん以上 俺は認めない」
一生、合格出さず! …いや流石に厳しすぎやしませんか?
しかし審査は合議制。一生といえど一票は一票。一剣と泰全は賛成。残る全生は…。
「如何も何も…まあいいけと 別にいいけど」
泣きながら、心底嫌そうにしながら。唇噛んで血を流しながら。
「認”め”る”っ」
我が儘無頼やりたい放題。故に全生に嘘はない。嫌いなまいけるにであっても心動かされた事実を曲げる事は出来ない…。
つまり賛成3、反対1。
「でっ…では改めて審査結果を発表します 今回の真打昇進試験 賛成多数により 阿良川まいけるっ!!真打昇進決定!!」
まいける兄さんの葛藤と再生、成長がよくわかる1巻でした。 己の感情の全てを懸けた最高の一席。多芸でも技巧派でもない感情剥き出しの演技は、おそらくまいけるにとってこれが初めて。これはかれにとっても大きな成長だったのでしょう。
そういえば「推しの子」でもそんなエピソードがありましたね。演技に感情を乗せることで爆発力が
上がる、というような。舞台に上がる者たちの共通認識なのかも知れませんね。
しかしここで思わぬ株価急騰があったのが全生師匠w 好きにやっているだけに自分に嘘がつけない…逆方向に筋が通っています。 こういう人って却って小賢しい事が出来なかったりするので主人公側に嫌々ながら協力するハメになったりして味わい深いんですよねw
「大谷日堂」って言うとわかる人にはわかるw
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