明日の敵と今日の握手を 5巻

 空を駆けるドラゴンフライ皇国人道派遣艦隊。 協商と同盟それそれの将兵の遺体交換の為…とついでに貿易しづらい物資を中立のドラゴンフライを通すテイで融通…密貿易だな!?

 表だけ整えた相当黒寄りのグレーですが、これの総指揮がハラルド。しかも物資調達業務を請け負ってるのがハラルド自身が設立したダミー会社…絶対それだけじゃ済まないなw

「パイナップル缶 桃缶 バナナ缶全て欠品なし」

 ジェームズが用意した人道支援物資。もちろん中身はそのままではなく、薬用アヘン、キニーネ、カフェイン…禁制品!ガチ密輸w

 しかも戻り…ミットル帝国からの積載予定品というのが…。

「感謝してくれると嬉しいですな 私も良かれとやっているわけですから 我が国の陸軍省は感謝しますよ ミットル製光学機器とスペアパーツが手に入るわけですからな」

 ブレタニケで照準器系の部品は大半をミットル製品で賄っており、今から国内で作ろうとしても技術的に無理…だからって言い訳しようもない軍需物資を運び込もうってのか?!

「言っておくが私は正規の手続きを一切逸脱していないぞ?」

 中身の事さえ言わなければそうなるでしょうね…書類上は完璧、と。

 こうして事務処理と「缶詰」の警備を任されたアメリアのストレスはマッハで蓄積していくのですw

 ところがその艦隊の旗艦と司令官がハラルド曰く「最悪の組み合わせ」。

 「文人としても名高い清廉潔白の人」ノルマン・ウィルストーン少将と「不祥事の報告が全くない」正統派巡洋戦艦カンカキー…というまるで問題なさそうな経歴なんですが…。

「危機を予防するのではなく危機を放置した挙句に救世主として解決してみせる ああいう手合いが私は一番嫌いなのだ」

 詳細は航海が始まると判明します。

 それはもう厳重に警備していた缶詰。銀蝿…盗み食いしてくる輩は撃ち殺してでも止めよ、とアメリアは厳命を受けていたのですが…。

「桃缶の数が揃わない! 搬入前と搬入後の数が一致していない!!!」

 はい、いきなり銀蝿発生w

「犯人を洗い出せ!どうせこの手の輩は目処も付く!」

 …え?

「問題行動を起こす部下を放置していたのかね?」

 …カンカキー艦長は出世の為の点数稼ぎに汲々としていて指揮下の不祥事をひた隠しにし、上への報告を怠っていた…つまりカンカキーは問題ない「優等生」なんかではなく、単に隠蔽体質だっただけ!

 で、その上司は問題を丸投げして責任をとる気がない…経歴に傷がない、というのは責任を部下に押し付けて切り捨てていた結果に他ならない…!

 そりゃ最悪の組み合わせに違いありません。 …恐るべきはブレタニケに居ながらその辺の事情を全て把握していたハラルドでしょうか。

 ギリギリで発覚せずに回収成功。ミットルで遺体と共に「缶詰」も無事引き渡し。

 引き換えにブレタニケに持って行く光学機器は…。

「型遅れの光学機器ばかりのあれか?あいつらまだあんな物を使っていると?」

 ブレタニケには旧式の機器を渡し

「で 本命は我が国の分だ 戦前の契約通り新型を貰えるんだろうな?」

 ドラゴンフライは中立国なので禁輸条項に引っかからない。

「言わんでも理解していると思うが我が国の敵国はもとより第三国への再輸出も絶対に禁止だからな? 合意は守れよ?」

「勿論だとも 私はやらないぞ」

 ハラルドがミットルの担当者に受けあった直後

「そうそう バラストの処分をお願いしたい 予想以上にかさばってね」

 即座にブレタニケの諜報部に連絡w

 ミットル側もその辺は心得たものでドラゴンフライ本国到着まで査察団が付き従っていたのですが…。

 ガリア到着時点で「スクラップ」の処分でハラルドと「業者」が取引する現場に踏み込む査察団。

「横流しの現行犯だ!明確な合意違反!」

 スクラップの中に新式光学機器を紛れ込ませ協商に横流し、と見たのですが…。

「妄想も過ぎると毒だぞ 君たちが見張っている倉庫に全部そろっているはずだ リストを突き合わせて在庫確認でもしたらどうかね」

 調べる査察団。

「あれ?全部ある?」

 いやまだ分解してパーツだけ抜き取った可能性が…。

「では好きなやつをバラしていただきたい」

 さらに調べる査察団。

「全部ある」

 …つまり協定違反の証拠はなし。

「ところで原状回復は? 今日中にお願いしても?」

 …専用機材もなくこんな精密機器を組み立てられる訳もなく。

「『完成品を引き渡す』それが合意のはずでは?」

「その残骸 早く原状回復を それともスクラップを渡されて引き下がれと?」

「正当な回復の要求だ スクラップでないと言うなら光学機器をリストアしてみせたまえ」

 詰んだ査察団。

「…破壊したことはお詫びいたします ですが誤解があったようで…」

「サボタージュの現行犯で拘束させていただこう」

「ああそうだ 弁償はお忘れなく 違約金だけではなくこの艦隊の運航費用も輸送費として請求してやるので後程明細を楽しみにするといい」

 …悪魔。最初に用意してあったのは本当にただのスクラップ。ガリア側をがっちりハメた上に毟れるだけ毟り取る気だ…。

「さて このスクラップを処分すれば我々の仕事も一段落だな」

 …えーと、光学機器を自分たちで分解するのは禁止されているが、ミットルの人間が分解して直せなくなったのは我々のせいではない…。

「合意に違反しないと?」

「勿論だとも 私はやらないぞ」

 …えーと、ミットル技官が公式の手順で分解しているからリバースエンジニアリングには最適な状態の部品だが、当人の言質を取ったのでこれはスクラップ。スクラップを売り払うのは合意違反でも何でもない…。

「つまり合意は破るまでもない…と?」

「勿論だとも 私はいつでも契約を守る」

 総じて、遺体交換を仲介したドラゴンフライの人道的評価は上昇。密輸の三角貿易で協商同盟ともとりあえずの物資は確保。最新光学機器をアクロバットで協商に横流ししたドラゴンフライ…というかハラルドはミットル、ブレタニケ両方から引っ張れるだけの対価を引き出して丸儲け…。 ハラルド一人勝ちじゃんw

 

 ほぼハラルドの掌の上、というのが恐ろしい。

 今回彼のコントロール下になかったのは艦隊指揮官ノルマンと旗艦カンカキーの選別くらいですが、それも誤差の範囲に収めてしまった。 このサイコパス、どこまでやれるのか…。

 ノルマンの分かりづらい無能ぶり、社会に出てみるとたまに居るんですね、こういう人。部下に仕事を『任せて』成功したら自分の手柄、失敗したら部下のせいでそいつを切り捨てる。責任を取る気がない上司…というのは部下から見たらストレス源でしかない訳で。 自分がそうだから更に上司のハラルドに頼る、という発想が出来ないのですね。

 で、功績だけ集めるので外から見たら有能な人物に見える、と。 『平和の国の島崎へ』にもちょうどこういう人が出てきてますが、こういう人が中心にいると短期的には成果が上がるんですが、いずれボロが出て組織がズタボロになる恐れまであります。

 さて、ラストで停泊中のカンカキーが爆沈してますが、まさかこれもハラルドの仕込みなのでは…?ノルマン追い落としの一手なのでは?とか疑ってしまうのは私の心が汚れているからなのでしょうか?w

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