紛争でしたら八田まで 16巻

 インドネシア。最先端企業で働くキャリアウーマン、マデリンが死んだ元彼の「呪い」でひきこもってしまった一件の解決に向かった百合。

 調べていくとインドネシアを東西に分けるジャワ人とパプア人の確執、マデリンの務める石炭採掘企業に対する悪評…等が巧妙に組み合わされている事に気づきます。

 元々マデリンの元カレアディは死んでおらず、別れた彼女をちょっと後悔させてやろうとマデリンの故郷の呪いを真似て見せた後にバツが悪くなってくもがくれしていただけなんですが、その情報を得て利用しようとした者がいました。

「この呪いに関わる2つの事象が交わり1つの”ナラティブ“が作り出されました 『大企業のジャワ人達がパプア人女性をいじめて追い出した』」

 ここにもうひとつ、サステナビリティ的に不利な石炭関連企業であるマデリンの会社が採掘しているパプアの石炭鉱山は、鉱山はアメリカ資本のもの…地代はジャカルタ政府に支払われる、パプアには利益が入らない構造である…という問題が加わると…。

「つまり『パプアの資源を搾取する憎き石炭企業のジャワ人達が 社内で唯一人のパプア人女性をいじめて追い出す』というナラティブが完成する」

 一社員のひきこもり問題が国家分断の策略まで繋がってしまいました。 こういう手を使う人間…居ますね。

 放っておけば中露対日欧米の新冷戦に巻き込まれて、最悪インドネシア分割まである…!

 早速対抗策を練る。アディが生きている事をSNSで発信、マデリンはパプア工場から企業イメージ回復活動に従事。パプア側の利益を代表する活動を行なっていく。 まだ情報工作が始まったばかり…噂レベルなら事実の発信で否定は難しくはない!

 依頼終了で帰りの飛行機を待つ百合。近くのベンチに座るのは…カイ! やはり一連の動きはこいつの仕込みでした。更にマデリンが異動して空いたポストに中国政府の息のかかった者を送り込む算段を…転んでもタダでは起きない!

「僕は先に行ってるよ そこでこれから…世界の命運を決めるアメリカ大統領選が始まる」

 …大統領選で何か仕掛ける気か。

 百合の方の次の任地はスウェーデン。クルド移民問題に切り込みます。

 移民受け入れに積極的なスウェーデン。クルド人居住者の多いステーンプロー団地においてスウェーデン人とクルド人との間の確執が深刻化している様子。ただ管理会社側からはまるで状況が把握できておらず…。

「…つまり私の任務は… 団地内を観察して 課題を特定して 解決方法を提示する ってことですね」

 …コンサルタント会社ってこんなザックリした依頼も受けるんですね…。

 団地に溶け込めないクルド人の若者たちがヘイトラップグルーブを中心にまとまり、良からぬ雰囲気を出しています。クルドは国を持たない民族。スウェーデンにいてもクルド語しか話せず、クルドコミュニティの中で暮らしている者もいれば、スウェーデン生まれでクルド文化など知らないのに見た目からスウェーデン人扱いされない者も…。

「『移民』と一括りにされる我々ですが決して一枚岩ではありません…」

 ラップグルーブに属する移民2世アズマルはガチガチの国粋主義者エリックとぶつかり合って段々仲良く…。 百合が見つけたエリックのレコードコレクション…日本で流行った「ボニー・ピンク」や「カジヒデキ」とか…アズマルの母もよく聞いていたということで縁が繋がりました。

 グルーブでもイマイチ仲間外れ扱いだったアズマル。

「スウェーデン語でラップ乗せれば?」

 百合のアイデアでスウェディッシュポップを取り入れた曲を作って行きます。団地の住人が集まる夏至祭りで曲を流そうか、という話になりますがどうもクルドコミュニティが祭りで何かやろうとしておるようで…。

 国がない、と言うのは辛い事なのでしょうね。同じく国を持たなかったユダヤ人が手に入れた国家イスラエルの現状を見ても、クルド問題の難しさは理解できます。日本にもあるこの問題、解決する道はあるんでしょうか?

 個人同士なら理解し合う事も出来そうなんですが…。

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